リフティング技術について

先週から“無敵無敗のデニス”こと、世界チャンピオンのデニス・ヴァシリエフがカリフォルニアに来ています。私達は毎日デニスとトレーニングや、ワークショップやオフタイムで一日中一緒に過ごしています。既に沢山の技術を彼から学びました。 今週末LAで行われるOKC主催カリフォルニア・オープン・チャンピオンシップは55名ほどの競技者が集い、米国ではかなり大きめの大会となります。この日は他の地域でも3〜4つのKB大会が行われるようです。
明日はジョンとデニスが車で5〜6時間かけてLAに向かい、マイクサレミとエイダも車でLAへ、私はジュリエットと2人で飛行機でLAのコスタ・メサという大会開催地へ向かいます。

一方私とOKCJの6人の“七人の侍”が出場するシンガポールのアジア・チャンピオンシップの方は、どうしても出たいという希望者が後を絶たず、現時点で90名近い競技者が集まっています。当然ながらアジア最大の大会です。OKCシンガポール・ヘッドコーチのイアンの呼びかけで、突然ジョンのシンガポール行きも決まりました。彼は昨年KBとは関係ない所で大けがをしてしまったので、32Kgは控えて24kgベルでバイアスロン競技を行います。

さて、今日は技術的な話をします。
GS(ギレヴォイ・スポーツ)はスポーツだから、最終目標は勝つこと、或いはランク獲得です。しかしOKCでは、今は勝つ事よりも技術の正確さを重視しています。また、出来る限り10分間を完走させるのも目標です。

ロックアウトとフィクセイション
ロシアの世界チャンピオン達が米国に指導に来る数年前まで、米国では“ロックアウト”は重要ポイントとして語られていましたが“フィクセイション”と言う言葉は多くの人が知りませんでした。私とジョンが最初に日本にGS指導に行った頃もフィクセイションと言う言葉は使っていません。しかしロシア人達が指導に来て、フィクセイション無しに正確な技術や美しいフォームを語る事は出来ないと学びました。では、ロックアウトとフィクセイションの違いは何でしょう?
ロックアウトとは、ジャークやスナッチでベルをオーバーヘッドに上げた際、ベルを持った腕の肘や両膝が真っすぐにカチッとロックされている状態を言います。この時に頭上のベルがふらつかず一瞬でも“完全にベルが静止した状態”を審判が確認出来る状態がフィクセイションです。完璧なフィクセイションは肘の完全なロックアウトの上に成り立ちます。ロックアウトが不完全なのにフィクセイションが出来ていると言うのは大変危険な状態です。肘が曲がっているのにベルが完全停止している場合、肘の関節や前腕に相当なテンションが掛かっている事になり、これを100回以上も繰り返していれば肘関節がやられてしまいます。競技会でノーカウントを取られる理由の90%は、不完全なフィクセイションかロックアウト、不完全なセカンド・ディップ(ジャークの時の2度目のハーフスクワット)が原因です。 しかし先にも述べた通り米国ではフィクセイションが重要視され始めてからまだ日が浅いため、現在でも10分間の内の毎レップのフィクセイションを完璧に行う人は数少ないです。

次のビデオは、私達の友人スコット・ヘルスリーが米国で初めてのLCのマスターオブ・スポーツランク獲得に成功したビデオです。

2008年と言えばまだ米国のGSは始まったばかりの頃。当時私やジョンや他のGSビギナー達はこのビデオを何十回と観て「すごいすごい!」と感動したものです。研究と勉強熱心なスコットはブログで自分の技術研究をアップし、そこから私達も色々学びました。しかし、今観てみればOKCJのメンバーとかならこのビデオのリフティングの問題点は直ぐに気がつくでしょう。今であればロックアウトもフィクセイションも不完全ですが、彼は米国GSの歴史の幕開けを作った先駆者ですからそこに大きな意味があります。それから5年経った今技術は研究されリフターのフォームは日々進化し続けています。スコットのようなリフター達が今の私達のGSの基盤を作ってくれた訳で、私達はそれをとてもリスペクトしています。ちなみにジョン所有の70kgのオレンジマンのロゴ入りベルはスコットが自宅で8kgベルの中に“特殊な素材”を入れて作ってくれたホームメードの特製ベルです。 ベルの製作料より送料がバカ高になってしまったのと、宅配の人が「箱は大きくないのに死ぬほど重い! 一体何が入ってるんだ!?」と焦ったという話です(笑)

他人の中傷をする時間があるなら自分の技術研究やトレーニングに時間を使え!

昨日、1年以上前のYou Tubeのマイク・サレミの競技ビデオにネガティブ・コメントが書かれました。
そのビデオはこちらです。


You Tubeに書かれたネガティブコメントでは「まず最初のレップはノー・カウント。次のレップは更に悪い。そして最後までどんどん悪くなっている。主催者側がこれらのレップのノーカウントを取っていないなんて馬鹿げてる。彼は強くて健康的でGS向きのスタイルだけど理解力が欠けている。彼に必要なのは今より良いコーチと理解力だ。ついでにに、彼は肘をベルトの上で休ませている。」と言った意味の事を書いています。
このコメントがYouTubeにアップされた時、マイク本人はデニスから個人トレーニングセッションを受けている最中でした。マイクの実家のトレーニングジムで私とジョンはそれを見学してましたが、ジョンのケータイにこのコメントポストがアップされたお知らせアラームが鳴って、セッションのあとジョンはこのコメントをデニスとマイクの前で読みました。
デニスは「確かにこの動画のフィクセイションには多少問題があるが、マイクはGSも自分の技術もよく理解している。彼はこの先チャンピオンになる素質を持った非常に優れたリフターだ。」と言いました。ジョンは翌日この件に関して公でこの動画とともに自分のコメントをアップしましたが直ぐに沢山の反響がきました。「ジョンは素晴らしいコーチである」というのと「マイクのこの動画のセットは完璧ではないかもしれない。しかしリフターとしての彼のパフォーマンスは素晴らしい」「マイクはイヴァン・デニソフみたいに完璧ではないかもしれない。だから彼はまだMSIC(マスターオブスポーツ・インターナショナル・クラス)じゃ無い訳だし”向上中“なんだ。」と言ったマイクとジョンのサポート・コメントが沢山きました。ちなみに現在まで、WKC組織のルールのみがラックポジションで肘をベルトの上で休ませるのを違反としています。

私達は出来る限りリフターの競技会でのセットの動画を公開しています。リフティングを自慢する為ではなく向上中の努力の成果を見る又は見てもらう為です。マイクの動画のセットが完璧でないのは本人もコーチのジョンも承知です。でもマイクはこのセットで全力を尽くし努力をし、それをジョンは誇りに思っているとコメントに書いています。ネガティブコメントを書いた人が、マイクのセットのあら探しをしてパソコンで中傷コメントをタイピングしている同じ瞬間マイクはデニスの指導で必死でトレーニングをおこなっているのです。フェイスブックとかツイッターとか、ブログとかで他人の姿勢や真面目に努力している姿に対し、上から目線で「この人は間違ってる」と断定したり「コーチを変えるべきだ」というような、書いた本人に全く関係ない無責任な助言を公に言う人達が居るのには悲しくなってしまいます。ところが、自分は正しいと思っていて「こういう人間はこういう事をする」とか「人はこうあるべきだ」とか、皆と同じ位しか生きてないのに、皆と同じ位しかトレーニングしてないのに色々意見したりうんちくを述べる人が多いのです。。。。。困ったものです。

技術の向上を目指せ
OKCのリフター、というか、米国の多くのリフター達はまだ発展途上中です。この国のGSの歴史が浅いからしょうがありません。それでも凄い勢いでリフター達のストレングスも技術も向上を続けています。私の今週末の競技会の課題は、レップ数よりも、より正確なフォームを目指す事です。次のビデオは私の昨年8月の大会のときのもの。

12kg のLCで私にとってはスプリントのスピードで10分間リフトしてますが、焦りが出てリフティングが雑です。技術の問題点は、動画は正面からなので分かりにくいですが、ダウンスイングが浅い事。浅いとクリーンをする時により腕の力を必要としてしまいます。そのため腕が早く疲労してしまうのです。次にセカンドディップが弱過ぎ。はっきりと膝を曲げてスクワット出来てない為、審判のマイクサレミから数回ノーカウントを取られました。次に疲れて来た時に足が弱まって来てます。本来なら疲れて来た時こそ足の力で踏ん張りベルを最後まで押し上げる事が必要です。この後私のトレプログラムはスクワットの量が倍になりました。良い所はオーバーヘッドのロックアウト。呼吸。フィクセイションの成功率は80%くらいでしょうか。目標130レップスで、結果131レップスだったので「ホッ!」です。

この大会の3ヶ月半後、ナショナルチャンピオンシップではついに12kgベルを卒業して初めて16kgで競技しました。その動画はこちら 

  
目標60レップスだったので10秒間に1回上げてます。ゆっくりのペースなのでトップでベルをフィックス時間があったため、リフティングフォームやフィクセイションはコーチルドネフやデニスにも褒めてもらえました。それでも問題点は沢山あります。まず、正面からの画面では分かりにくいですが、クリーンで上半身を後ろに反り過ぎ。白黒写真では横から撮られてるため、腰が前に突き出し上半身が必要以上に後方に反っているのを確認出来ます。

これが癖になれば16kgより高重量ベルになった時腰を痛める可能性あり。ラックでは両肩を前方にしゃくり入れる様にし出来る限り上半身を小さくまとめるようにしなければいけません。これがまだ私には出来ていません。次に左から右手に代わったあと、右のラックポジションの時にベルを持ってない方(左)に体が傾いています。これは左半身でベルの重量を支えているという事です。ラックポジションではベルの負荷は出来る限り体の中央で支えられるべきで、これはダブルベルでなくシングルベルでも同じなのです。ラックポジションで立っている両足は均等な重量配分で負荷を受け止めるのが理想です。あとはデニスからアドバイスされた細かな点としては、足のスタンスをもう少しすぼめること。ベルが重いので大きめに足を開いてしっかりベルを支えたいと無意識に足は大きく開いていましたが、それだとジャークやLCで一番力が必要な瞬間=バンプアップの時に力が発射しにくいと言うのが理由です。また、私が仁王立ちしても全然カッコ良くないし・・・・笑。 あと右手に代わってからダウンスイングで顔が何故か毎回クイッと一瞬傾いています。この動きも必要なし。・・・・と、まだまだ課題はいっぱいです。このときは66レップスで目標クリアしました。 実際は67レップスで、フィクセイションの不正確さで1レップノーカウントを取られています。

今週末の大会の目標は65レップスです。4週間後のシンガポール大会が重要なので、デニスとジョンから今週末はマックス(限界)を出しては行けない。と言われている為です。 今週の大会も出来る限りフォームを完成させたパフォーマンスが出来ればと思っています。