ケトル指導の難しさ

7月のOKCJ訪日イベントのお申し込み受付が始まっています。お早めにお申込みください。

OKCのオーナーJWは2003から現在までケトル道一本で走ってきました。私もJWと共に2008年からケトル一筋です。ドルビーもJWと同時期からケトル指導を始めています。私たちは日本ではもちろんアメリカでもKBスポーツ指導者の先駆者的存在でもあります。私はこの8年間JWとケトルのお仕事をしながら彼のKBスポーツ哲学や方針などたくさんのことを教えてもらいました。そしてそれがOKCのスタイルとなりました。7月のコースでもお話しする予定の”指導について”をここでも書いてみようと思います。KBスポーツ指導者になりたい方は是非お読みください。 写真は私の生徒の中で唯一私のことを「鬼コーチ」と呼ぶ(笑)クレイグのOKCJ資格コース・レベル〜2の実技試験の模様です。

私たち(OKC)は今まで何十回もKB教育イベントを開催し何百人もの人たちにKBスポーツ・リフティングを指導してきましたが、リフティング同様、指導にも”コツ”があると感じています。
1:先天的な身体的能力(重量負荷に対する類稀な耐久力を潜在的に持っている人とか)
2:運動センス
3:誰よりも強靭な精神力
4:努力家
5;重量の連続移動可能な年齢層
この5つを全て持っている人なら必ずチャンピオンになれるはず。でも、私たちがこの8年間ケトル指導をしてきた中でこの5つ全てを持っている人には数人しか会ったことがありません。普通の人は上のどれか1つか2つ、あるいそのどれも持っていない人たちだったりします。この”普通の人たち”にどうケトル指導をすれば良いのでしょうか?

1:優れた指導は職人芸
包丁を持ったことがない人に大根の輪切りを頼めば大根は5mmだったり1cmだったりバラバラの厚さになるでしょう。あやまって指を切ってしまうかも。でも何年も輪切りの練習を続ければ最後には目隠ししてでもハイスピードで全て同じ厚さに輪切りすることができるかもしれません。そうなったらこれは”職人”と呼びます。私も今まで何年もほとんど毎日のようにケトルリフターたちを見てきて、自分の練習を続けそして指導をしてきました。そして今では新しい人がジムに来て数レップスケトルを振ればその人の良いところと悪いところがすぐに分かります。そういう意味では私はケトル職人に近づいてきたと思っています。笑

2:コツをつかめ!
でも、資格コースを受けたらすぐに職人になれるわけはないので「そしたら資格コースに受かってもすぐ指導はできないのか?」と言われるかもしれません。すぐに職人になれなくても指導の「コツ」を掴むことは可能です。
1)生徒の性格を素早く読む。
2)生徒の身体的特徴を読む。
3)生徒の”KBを習いに来た動機や目的を理解する。
この3つは職人でなくてもできます。そして初めての生徒に対して行う最初の大切な事柄です。 現在私には超難関の生徒がいます。この生徒はJWが「今まで何百人も指導してきたが彼だけは俺は忍耐が続かんからナゾあとを頼む」と言ったくらいです。年金暮らしをしている60代半ばの方で、この1年間週3回雨が降ろうと槍が降ろうと決して休まずOKCジムに通い続けており、奥様も小学生のお嬢さんも巻き込んで家族みんなでOKCの生徒さんです。甥っ子や近所のおばさんたちとかも連れて来てくれる有難い生徒さんです。しかし、もともと腰が悪く、医者やカイロに通ったり鎮痛剤を服用しながらも絶対に休まずトレーニングに来るのです。夏休みの家族旅行に行こうという時も「冗談じゃない。ケトルを休むわけに行かないから私は残る」と言って家族のヒンシュクを買ったくらい。そしてケトルに来るとケトルを始める前から「うーー、腰が、、、、腰が、、、、」というのです。 生徒は通常ジムに来ればまずローイングを行いますが、その時点で「あーー、今日も腰が痛い。」と始まります。そして痛い痛いと言いながらもジムの中で他の仲間がランキング目指してトレーニングしていれば自分もランク目指して大会に出たいから頑張りたいと言います。私は指導者として一体どうすれば良いのでしょうか!? 皆さんが指導者だったらどうされますか? 

1)彼の性格を読む=彼は一度始めたら決して休まない大変真面目な性格。本当に真面目なので他の仲間と違うことをやらせたら自分は落ちこぼれ、みたいに思って傷つくので、軽いベルでも他の仲間と同じセットを行わせること。そして真面目な性格の人にはネガティブなことを言うと他の人より落ち込み度が深いので、とにかく励ますこと。
2)彼の身体的特徴を読む=常に腰が痛い=年齢的なことも考慮し、他の普通の健康なリフターには行わせない”彼のための、腰に負担のかからない特別なフォーム”をJWが研究した。
3)彼の動機や目的=最初の動機は「いつも犬の散歩でジムの目の前を通りながら興味を持ったから」で、特に健康やスポーツ目的ではなかった。しかし始めて数ヶ月後からケトル、そしてOKCジムに通うことは彼の今の”生きがい”になった。=元々の目的はなく動機は”興味”があったから。なのでその”興味度”を上げるためにとにかく毎回楽しいセッションを行うよう心がけた。(一年かけて未だに基本だけを指導しています。)今の目標は「いつか競技会に出させてあげること」

JWが特別なフォームを研究したという部分を除けば、あとは職人トレーナーじゃなくてもできることです。彼のような性格の場合「腰が痛いならケトルはやめなさい」と言ってしまったら今の彼の生活の大きな楽しみを止めてしまうことになり、それで運動しなくなったらますます腰は悪くなるでしょう。私やJWは、他の生徒がいない時は20分くらい彼の腰のマッサージしたり、腰のためのストレッチや軽運動を特別に行ってます。
彼はデニスが訪米した時も個人指導を受け、デニスのベルトも買って本当に一生懸命です。

3:生徒の”レベルと性格に合わせた指導を行うこと”
特にパーソナル・トレーナーの場合、パーソナル(個人)、すなわち個々のタイプやニーズに応じカスタマイズされた指導を行うこと。
1)生徒がビギナーで真面目で控えめな場合=生徒に安心感を与える指導を行うこと。=「大丈夫。君ならできる。」「よく頑張ったね!」としっかり励ましてあげる。ビギナーが”できない”のは当たり前。トレーナーは、自分ができることだけを生徒に見せたり生徒の弱点だけをガンガン指摘したりすると真面目な生徒は萎縮します。こういう場合トレーナーが32kgを楽に扱えるレベルでもわざとデモでは16kgだけで行ったり、生徒の”良い点”を強調してその部分を励ましながら、悪い部分は1回のセッションで1〜2箇所指導する程度が適切です。ケトルは”生徒も指導者も忍耐が必要”です。
2)生徒がビギナーでやる気満々の場合=こういう場合はトレーナーは32kgが楽に扱えるレベルなら、それでキツ目のデモを行ったりします。生徒は「すげー、俺もやってみたい!」とか「俺も1回だったら32kgジャークできるぞ」とか思ったり言ったりします。そこからやる気を持たせれば良いのです。しかしそんな生徒にも最初は悪いところをたくさん指摘しないようにします。せっかくのやる気をクジけさせぬようこちらもノリノリで行きます。
3)生徒が中レベルの場合=生徒さんが勉強熱心か怠け癖のあるタイプか気が散りやすいタイプかネガティブタイプかなどの性格によっても指導方法は変えますが、中レベルからは指導方法も厳しくなり始めます。フォームや技術の悪い点は明確に指摘します。トレーニングプログラムも本格的になり始めます。
4)生徒がすでにアドバンスレベルの場合=この場合はもう生徒の性格云々ではなく、生徒のリフティング技術やフォームなどにしっかり焦点を当てて生徒の目標に合わせた指導を行って行きます。

インストラクター/トレーナーとして最も大切なことは「自分がいかに凄いリフター/トレーナーか、ということを生徒に知ってもらうこと」ではなく、生徒に「このトレーナーは自分のことを(技術面、性格面含め)凄くよく理解してくれている」と思ってもらう(信頼してもらう)ことではないでしょうか。

OKCJの資格コースに参加してインストラクターとなった方はその日から指導者の肩書きがもらえます。ケトル指導を始めたあと、生徒が先月できなかったことができるようになる、先週できなかったレップ数が今週クリアできた、などの進化を見ると本当に嬉しく感じます。それがやりがいにもつながってきます。日本に素晴らしいKBスポーツ指導者がどんどん増えて欲しいです。
指導することとはなんぞや、とぜひ一度考えてみてください。