性格、個性とトレーニング

レーニング生活を始めて一ヶ月が過ぎました。

週4日、一回2〜3時間のトレーニングもルーティーン化し、その生活に体が慣れつつあります。
週4日のトレーニングは,軽め〜普通レベル〜ハードと日によってプログラムの強度が異なり、毎週土曜日はチームやグループで一番強度の高いトレーニングを行ないます。KBトレーニングはジュリエットのJunoジムで行ないますが、それ以外で大きなフィットネスクラブに入会し、そこではトラックフィールドや各種マシンが揃っているのでGPP(ランニングや筋トレ等の基礎体力作りのトレ)を行なったり、Junoでケトルトレ日の合間に行ってサウナやジャグジーで筋肉をほぐします。私は主にサウナでストレッチやヨガを行ないます。

私は昨年一年間真面目にトレーニングを行なえなかったので、今年は初心に返って一から出直しです。今年もLC(ロングサイクル)を追いかけていますが、1年半前の記録にはるかに及ばず、毎週土曜日のLCヘビータイムセットでは毎回「こんな筈じゃ・・・・」とトイレに駆け込んで悔し涙を流したりと、正直情けないです。それでも少しずつ進歩しています。そして転んでも転んでも再び起き上がる毎日です。

レーニングを仲間と始めると、それぞれの性格がトレーニングに顕著に表れてきます。JWは朝起きると同時にコーチルドネフから送られたトレプログラムを見てその日の内容をチェックし、全てのトレ内容〜レップ数やタイムセットの時間などを頭に叩き込んでJunoへ向かいます。Junoへ行ってからJWの作ってくれたトレプログラムを印刷し、それを見ながらトレーニングを行なう私とは既に気合いが違うのかもしれません。JWは日頃から自分の喜怒哀楽をストレートに出します。自分の気持ちを誤魔化すことは無く親しい仲間達には「さっきこういう事があって気持ちが沈んでいる(とか怒っている)」などと説明し、私達のせいではない、ゴメンなどと非常に明確に言ってくれるので私達はとても対処し易いです。そして(タイム)セットでルドネフの提示したレップ数をクリアできなかったり自分のその日のコンディションが予想外に悪くフォームが崩れたりすると自分に対して怒りまくります。こういう時は誰も余計な声を掛けず彼が落ち着くまでそっとしておきます。
ジュリエットは毎回JWの作ったプログラムをやり通します。勿論(タイム)セットがきつ過ぎてセットの途中で苦しくなってベルを床に置いてしまう事もあります。それでも苦しそうに数呼吸してから再びベルを上げ始めます。横で彼女のリフティングフォームをチェックしながらレップ数をカウントしているJWは、苦しければ止めて良いとか大丈夫かなどと優しい声を掛ける事はありません。静かに「あと20秒で(再)スタートしなさい」などと言います。私は彼女が「クソ~~ッ!」とか叫ぶのは何度も聞いた事がありますが「苦しい。もうだめだ。これ以上出来ない」などと弱音を吐くのを聞いた事はありません。特にその日の自分の調子が悪くて、予定のプログラムがこなせなさそうに見えても始める前から「出来るかわからない」とか「多分無理」などと言う事はありません。非常に芯の強い人です。 
ドルビーはルドネフのプログラムにはなんの迷いも疑問も無く無心にベルを上げ続けます。ルドネフコーチに対する尊敬と忠誠心は誰よりも強く、しかし他の人や仲間が技術的なアドバイスなどをしようとしても聞く耳持たず頑固な所があります。反対にJWは、例えば東京で自分の生徒のイアン君がJWのリフティングの癖を指摘した時など、指摘してくれた事を感謝しその癖を直そうとずいぶん研究していました。皆それぞれ個性があります。

私はJWがプログラムしてくれるトレ内容を毎回全部制覇しようとします。JWの指導を100%信じています。しかし! 私には凄い短所があります。言い訳をするとこれは一般的に日本人気質と言えるようですが、まず朝その日のトレ内容を見て今までやった事の無いセットや、前回限界ぎりぎりだったセットの時間やレップ数よりも長い又は多い内容だったりすると「ううう〜〜〜」と呻いたり「こんなレップ数・・・出来ない・・・・泣」と思わずボソッと自分に呟いてしまうのです。「トレーニングに限らず多くの場面で、最初のリアクションがネガティブなのは日本人の癖」とJWは言います。始める前から「ううう」とぼやく事で自分の気持ちを弱めてしまう〜ネガティブな気持ちでセットを始めればネガティブな結果しか出ない。「無理だ」とか「怖い」という気持ちがレップ数が前回の限界数に近づくにつれ増長され、行けるかもしれない最後の数レップスを殺してしまうのです。JWに「“出来る前”から“出来ないだろう=出来ない(断定)”と自分で決めるな! 君が出来るかできないかを見極めるのは、そして決めるのはコーチの俺の仕事だ」と怒られます。怒られてから「うう」とか「出来るかどうか分かんない」と声に出して言うことは意識してしないようにしました。そしたらJWから「顔がだめだと言ってる」とまだ怒られます。セットを始める直前プラットフォームに立ってタイマーがスタートの時間を示すまでの数秒〜数十秒間の私の表情に不安や怯えが見え、口に出さなくなっても「こんなレップ数無理だろう」という気持ちが顔に出ているから同じだというのです。私の今の一番の“乗り越えなければ進まない壁”はこれです。JWも「俺がどんなに頑張ってコーチしても君の癖(気質)を変えなければ俺はコーチできない」と言います。仕事などではかなりポジティブ精神の私ですが、ケトル弱虫の気質を「なにくそ精神復活」に向けて頑張り始めた所です。長い道のりの始めの一歩と言った所でしょうか。

私の最初のKBスポーツコーチだったローナ・クレイドマンは、昨年6月のNYで20kgベルスナッチ176レップスでマスターオブスポーツ・インターナショナル(MSIL)タイトルを獲得し、OKCチームも参加した、ジャパンツアー直前のミシガン州での大会では、他の人の世界記録に挑戦し、16kgベル10分間スナッチで脅威の270レップスを上げ新世界チャンピオンになりました。(体重65kgクラス) 男性でも1分間27レップスを持ち替え1回で10分間続けるのは至難の業です。彼女は出番の40分くらい前から会場奥の隅っこで静かに座って目を閉じ精神集中の為の瞑想をしているようでした。競技中の彼女はまるで女王のように堂々と、マシンガンのようなパワフルなスナッチパフォーマンスで余裕にさえ見えました。写真は全部私が撮ったものですが、彼女は270レップスを上げ終わった瞬間大きな声で「ワールドチャンピオンよ!!!!」と叫んでコーチであるルドネフの元へ駆け寄り彼に抱きつきました。その時の写真を撮ったのですが、彼女のチョークまみれの手は血が滲んでいます。この写真を見た多くの人が「ローナでもスナッチで血が出るんだ!」或いは「血が出ても全くスピードを落とさず270回上げたなんて!」と驚きました。いつも私を写真家として雇ってくれる彼女はこの写真を特に気に入ってくれました。手の痛みを超えても「世界記録を勝ち取ってやる」という、その血の滲んだ手が根性の塊の彼女の性格を物語っているからです。 私はいつもカメラを通してこうしたチャンピオン達のチャンピオンたる理由を見ています。JWが私に訴えたいのはこの事です。「競技者なら勝つ為にリフトしろ」と。勝つ為にトレーニングしなければJWのコーチは必要なく彼の時間を無駄にしてしまいます。
ちなみにリフト中のローナの背後に座っているのは(通常は競技者のコーチですが)コーチのルドネフではなく彼女の最強のサポーターであり最愛のご主人です。

こうして少しずつ学びながら進んでいるこの頃です。
動画は270レップスを叩き出したローナの世界新記録達成の瞬間のものです。

ナゾ