ロシア、ハードコア・ウエイトリフティングスクールの実情

まず、ロシアの話の前に、最近入ってきたケトルベル最大イベントの話題から。
昨年スウェーデンのIKFFイベントで知り合ったモニカ。

彼女はスウェーデンでフィットネスクラブをご主人と共に経営しており、IKFFイベント時は妊娠中で大きなお腹を抱えながらも参加、逆立ちしたりして皆を冷や冷やさせたが、本人はケロッとしていた。(写真は右側がモニカ。この時は妊婦の参加者は2人!)
その彼女は7月出産後育児に追われながらも”現場復帰”(笑)。 彼女のジムはナイキがスポンサーをしているが、そのナイキが年に1度ストックホルムで主催する大きなスポーツコンベンションのスピンクラス(エアロバイク)とケトルベルイベントを担当。テーマは”ケトルベル・フロンティア”だ。 彼女はなんと一度に210人の参加者にケトルベル指導を行った!!!
モニカ本人も「たった一人で210人にケトルベル指導を行ったのは世界記録かも!!」とイベント大成功を語っていた。凄いこっちゃ!!! おめでとうモニカ!!! ちなみに彼女は中国系アジア人でご主人はドイツ人。下のビデオは3年前のナイキコンベンションでスピンクラスをリードするモニカの映像。


さて、本題にして問題のロシアのケトルスクールの話題。
ロシアといっても正式には1991年旧ソ連から独立したウクライナ国のウエイトリフティングスクールの話である。

ウクライナの田舎にある「”U ”チャンピオン・スポーツ・クラブ」では、過去に20人以上のマスター・オブ・スポーツを生み出し、5人の国内チャンピオンそしてウェイトリフティングでは4人の世界チャンピオンを誕生させた。
数々のメダリストを創り上げた輝かしい栄光とは裏腹の、クラブの厳しい現状をテレビ局が取材した貴重なビデオを御覧頂きたい。
ここで画面を上手くアップできないので、下のウェブアドレスをクリックしてビデオを御覧下さい。
http://podrobnosti.ua/podrobnosti/2010/01/23/660543.html


ビデオはロシア語なので、内容の翻訳を簡単にまとめてみた。
氷点下15度の極寒の中、このクラブにはまともな暖房設備は無く、ロッカーも水もシャワーも無い。自家発電で作った簡易ヒーターが数個あるだけである。木の床は朽ち果て、ラバーマットが代わりに敷かれている。
過去20年の間、数々のマスターオブスポーツとケトルベルの世界チャンピオン達を生み出したこのクラブには、今も近郊から40人の生徒達が週に3回休み無く通い続ける。
クラブのコーチは語る。
「私は言いたい。暖房の効いた温かな場所でぬるま湯につかるより、厳しい寒さのジムを薦める。ストレングスや健康は温かな環境では作れない。ジムが容赦のない厳しい寒さであるなら、ヒーターは自分の体でトレーニングによって生み出せばよいのだ。自分で自分を暖めるのだ。そこに何かしらの結果は必ず現れる。」

「この小さな村全体がウェイトリフティングスポーツに寄与しているが、ボロボロのクラブの改築は困難を極める。ずばり”お金が無い”のだ。この地域の地方自治体もどうにも出来ず、唯一地方のスポーツ委員会が、なんとか少年達が競技や大会へ出場する為の旅費を算出するのがやっとである。しかし、お金がないのはこのクラブ或いはこの村だけの問題ではなく、国を挙げての問題である。
この国民的財政難からの最後の望みは、ウエイトリフティング競技をオリンピック種目にさせ、ブームを作り上げる事である。このクラブの生徒のレベルと運動量を見て欲しい。オリンピック選手のトレーニングの質と量とに勝るとも劣らない。 彼らは一回の練習毎にに15〜20トンほどの重量を挙げているのである。
この小さな田舎のストロングマン達は自分を信じてトレーニングを行っている。私は彼らに一つとは言わず(世界)記録をつくり上げると約束する。それは勿論このクラブの建物が老化で崩れ落ちなければの話だが、、、。」


いかがであろうか。
ロシアのアスリート達が何故強いのか。

彼らには選択も妥協も怠慢もないのだろう。 又、携帯電話や任天堂DSやデジカメやプレイステーションや高価なトレーニングマシンやプロテインパウダーやサプリメント類などもないかもしれない。若しかしたらパソコンやインターネットもあるかどうか、、、。娯楽や選択が無ければ目の前に与えられた”やらなければならない事”をやるしかない。 良い意味では選択が無い分迷いも無いのだろう。娯楽は楽しみや喜びに繋がるが、彼らの喜びはメダルを勝ち取った瞬間に得られるのだ。 その為に厳しい環境の中邪心もなくひたすら練習する彼等が強くならない筈はない。


私はある時とんでもない女の子と知り合いになった。 彼女の事はあまりにも非現実的で、私がブログで書いてもほんとの話か信じてもらえないのではと思うほどなのだが、その内紹介しようと思っている。 この彼女もロシアから程近い国に住み、そして彼女の国も大変貧しい。彼女は手紙で私に「私が生まれた時から家にはケトルベルは沢山あったがお金はこれっぽっちも無かった」と言っていた。私はその内彼女にトレーニングする為のお金を、小額ながら寄付しようと思っている。 彼女は又手紙で「いつか将来i-phoneを買いたい」と夢を語っていた。 彼女はまだ17歳である。

アイアンマンジャパン誌の2月号をお読みになった方なら、私がインタビューした6人の内の一人、ヴァレンティン・エゴロフ君の記事を眼にされたと思う。彼もロシアの地方に生まれ育ち、厳しい環境でケトルトレーニングをし、ウエイトリフティングスクールでケトルを学び現在未だ20代半ばでありながら、数々の国内、世界記録を作った、ケトルのチャンピオンリフターである。
その彼が最近「今朝のトレーニングではマイナス17度Cの気温の中で寒中水泳を行った」と書いていた。 ロシア人には”鉄の魂”でも宿っているのかもしれない。
ロシア人、恐るべし!!!

ナゾ