東京KB競技会3種目解説

今日は12/10に開催されるOKCJのKB競技会の競技種目についてお話します。

まずジャークはLC動作の一部に入っているので、次のLC連続写真に沿って説明します。これはJWとジェイソンのコーチで43回も世界チャンピオンになっているセルゲイ・ルドネフコーチ(元ロシア国ナショナルチーム名誉コーチ)の手本で、私が2年連続で参加したIKSFAコーチ資格コースのマニュアル本の中より抜粋しています。。

ジャーク(Jerk)
1:床から拾い上げたベルをクリーンし、ラックポジションで停止。(写1)
2:ラックポジションの状態から両膝をディップ(ハーフスクワット)させ(写3)、膝を伸ばしバンプアップ(跳ね上がる)しながら一気にベルを上方へ上げる(写4)。このバンプアップの瞬間がジャークで最も出力を全開させる時〜大事な瞬間、なので写真に赤字で番号をつけました。
3:ベルがトップポジションに届く一瞬手前で2度目のアンダー・スクワット。(写5)写真は正面からなので膝の曲がり具合が見にくいけど、青丸つけた膝部分がディップされてます。 要するに写5の状態では、上肢は上に伸び、と同時に下半身は一瞬下に下がるという逆動作が行われます。ロシア人リフターにはこの2度目のスクワットをしっかりゆっくり目に行う人が多いですが、米国人リフターは非常に素早く行う人が多いです。ただし、素早過ぎて審判が膝のディップを確認出来なければノーカウント(レップ数をカウントしてもらえない)です。
4:オーバーヘッドのトップポジションで一旦完全停止。この状態をフィクセイションと呼びます。(写7)フィクセイションでは、ベルを持った腕の肘と両膝が真っ直ぐロックアウトして停止した状態を審判が確認した瞬間初めてカウントしてもらえます。すなわち明確なフィクセイションは必須です。フィクセイションではベルを上げている腕は耳の真横に来ます。腕が耳より後方でも違反ではありませんが、耳より前方だとノーカウントです。
5:レップ数がカウントされたら素早くベルを頭上から真っ直ぐ胸まで下ろしラックポジションに戻ります。(写8〜9)ベルは真っ直ぐ下りるのが理想ですが、ベルが頭にぶつからぬよう頭と上肢は若干後方にのけぞります。

写真の1〜9までがジャークのムーヴメントです。写真ではダブルベルですが、シングルベルでも基本は同じです。 シングルジャークの見本ビデオを次にアップします。これはOKCインストラクターのサラ(左)とジュリエット(右)の9月シアトルでの競技会の時のものです。ジュリエットの背後には2人のコーチのJWが、サラの背後にはジェイソンが応援に着いています。サラは12kgベル、ジュリエットは16kgベルでリフトしています。ジュリエットはバイアスロン競技(ジャーク&スナッチ2種目合計)でCMS(マスターオブ・スポーツ候補)タイトルをこの大会で獲得しています。ジュリエットはJWの生徒であると共に彼のトレーニングパートナーなので、殆ど毎日2~3時間も一緒にトレーニングしています。コーチが同じだからサラとジュリエットのリフティングは似ていますね。

ロングサイクル(LC)
ロングサイクルは上の見本連続写真の全動作です。基本的にジャークの動作にダウン&バックスイングとクリーンが加わったものとなります。ジャークのパートは上で解説した通りなので省略します。次のビデオは、やはり9月のシアトルで、JWが手塩にかけて育てている一番弟子のマイク・サレミ君で、この時彼もCMSタイトルを獲得。11月のナショナルチャンピオンシップではMS(マスター・オブ・スポーツ)タイトル獲得を目指しています。この大会ではサラ、ジュリエット、マイク、JWそしてジェイソン全員優勝しました。
このビデオでマイクは勿論24kgダブルベル、隣の女の子達は16kgでLC奮闘。隣の女の子は最後疲労で思わずジャンプしながら上げていますが、これはジャンプをすると余計な出力の浪費となるし地面から足が離れる事でエネルギーが逃げていってしまいます。この様にフォームが崩れても力の限界まで上げようと頑張っているのです。サレミ君の背後ではコーチのJWそして応援のジェイソンとデビッド・エルキンが見守っています。

1:ベルをクリーンしてラックポジションで一旦停止後ジャークし、又ラックポジションに戻ります。(写1〜9)
2:そこからベルを両足の間へダウン&バックスイング(写9〜13)〜バックスイングで反動をつけて今度はベルを前方へくり出します。ベルが両足より前に来たらベルを体全体でひょいっと引っ張り上げるように振り上げ素早くクリーンします。(写14〜17) クリーンをする時はベルを前方に振り出すのではなく、なるべく体に近い位置で下から上へベルを移動させます。要するにベルの動きは半円形を描くのでなく、より直線に近いように動きます。下の写真は私のLCの動きを、ロシアのスポーツ科学者チ−ホノフ博士が、KBスポーツ科学の著書の研究材料としてアナライズ(分析)してくれたものです。黄色の重複線がベルの動きを示しています。バックスイングからクリーン、そしてそこから真っ直ぐ上へジャークしている時のベルの動きが体から大きく離れていない事が分かります。
連続写真の9から17までの動作は通常3秒ほどで行い、大事なのは、写真のようになるべくベルを持った肘がわき腹についている或いは近い所で動く事に注意する事です。
3:呼吸はダウンスイング時吐き、息を吸いながらしたから上へクリーン。大きく息を吐きながらベルをラックポジションに収めます。ほんの瞬時息を短く吐いたら今度は大きく息を吸いながらバンプアップ。トップポジションではどれだけ休むか(停止するか)により息の仕方が変わってきます。短く息継ぎするか長くふぅ〜ふぅ〜と吐くか。いずれにせよ大事な事は全ての動作中息を止めない事。10分間のKB競技はマラソンのようなもので一定のリズムで常に呼吸し続ける事が反芻運動の動きに流れを作り持久につながります。ベルをトップからラックポジションに下ろしベルが胸に収まる時に息を大きく吐きます。そして短く息を吸って吐きながらダウンスイング。この繰り返しです。
呼吸パターンの習得はKBスポーツの大変重要なポイントです。
4:ベルを持っていない方の腕は基本的に常時リラックスしています。どの種目でもシングルベルの場合、5分目でベルを左右持ち替えるのが理想です。(ルールではない)ルールは、10分間で1回以内しか持ち替え出来ないことです。ちなみに写真のルドネフは体重65kgしかなく、それで32kgx2個=64kg(ほぼ体重と同じ)のベルを何十回も上げられるのですから凄いです。

スナッチ

ケトルベルをトレーニングしている人なら一度はスナッチをトライしていることでしょう。色々なスタイルのスナッチがありますが、スポーツスタイルでは腹筋やテンションにこだわったりせず、こだわるといえばベルを如何にコントロールするかという事です。スナッチはリフターにより様々なフォームや技術や癖、特徴があり、他の種目よりもリフターの個性が出易い種目です。
次のビデオはJWがCMSのタイトルを獲得した9月の競技会での32kgスナッチビデオです。JWの横は私達の友人、KBレジェンドで一風変わったデビッド・エルキンです。5月のロシアIKSFAコースでも彼と一緒でした。マニアックな写真2枚もデビッドです(笑)写真のイメージとは裏腹に大変優しい友達です。余談ですが、写真の赤い極太チェーンはJWにプレゼントされました。


1:ベルを床から拾い上げ一気に頭上までスナッチして開始する。ベルを床から拾い上げてから一回だけバックスイングしてから頭上へスナッチする事も許されますが、それは最初の1レップ目のみで、スナッチ競技中に余分なスイングを行うことは禁止です。(審判より警告を受ける)
2:スナッチで振り上げる為の出力を作り溜めるバックスイングはしっかり行います。(写6)しかし片手5分目近くなると疲労でバックスイングが出来なくなります。この状態はもうこの腕の力の限界が近づいて来ている時です。一気に上まで振り上げる力がなくなってくると、多くのリフターはトップポジション手前でジャークのようにハーフスクワットをする人が居ますが、これは違反ではありません。
3:バックスイングで後方へ突き出た臀部を、バックスイングの勢いの反動で前方へはじき出すようにしますが、気持ち的には前方でなく臀部を中心に下半身全体を上方にはじき上げる感覚です。(実際にベルは素早く振りあがる)(写7〜8)
4:KBスポーツのスナッチ動作の特徴として、目識し難い程度の「ひねり」があります。写真の8〜9の動作で、ベルを持った方の肩を勢い良く後方に引きながらベルを自分の方に近づけ(ハイプルみたいに)そこからトップへ振り上げる人が居ますが、この方法で24kgや32kgスナッチを10分続けたら直ぐに肩や腕を壊してしまいます。
5:KBスポーツスナッチの「ひねり」の習得にはかなりの練習が必要ですが、これはある程度の高重量の持久戦には役に立ちます。写真8の状態の時ベルを持った側の方へ一瞬腰からひねりを入れます。ボクシングでフックを入れる瞬間の腰のスナップを入れる時のようです。(ただしスナッチではボクシングとは逆方向(外側)にスナップを入れる)腰からひねりを入れる事で下半身から安定した出力を出す事が出来るのです。このひねりがはっきり見えるリフターも居れば、目視では殆ど分からないリフターも居ます。次のビデオでは私達の友人で無敵無敗の世界チャンピオン、デニスのスローモーションの動きでわずかなひねりを見る事ができます。

6:写真10で、ベルのハンドルが手の中で素早く軌道修正されそのままオーバーヘッドへ振り上げられます。
7:トップポジションのフィクセイションはジャークやLCと同じでロックアウト必至。(写12〜13)
8:トップポジションでベルを持った手の親指は内側を向いていますが、そこから下降する際手は内側へ若干ひねります。内側に向いていた親指は後方向きになります。(写13〜14)
9:写真13〜14にかけて上肢は若干後方にのけぞるような感覚です。写真に番号を付けそびれましたが、14の次の動作でベルのハンドルを再び素早く手の中で軌道修正させそのままダウンスイングへ入ります。この時肘は出来る限り体に近い所で動きます。(写3)
10:肘が体についてベルが下方まで下がって来た時に素早く上半身を前方へ傾け足はハーフスクワット状態、臀部は後方へ突き出すような形でベルを足の間後方へバックスイングします。(写6)
11:呼吸はバックスイングで吐き、息を吸いながら振り上げトップポジションではきます。一旦停止の後短く息を吸って、吐きながらベルを下ろしバックスイングします。一定の呼吸リズムが一定のスナッチムーヴメントを作ります。

以上がKBスポーツの3種目動作の解説です。呼吸に関してはどの種目も、極端に言えば息を吐く事だけに注意を置いて下さい。息が正しく吐ければ必然的に吸う方も正しく行えます。

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